え?!5000円札をだしたのに、6000円もおつりをもらってた?!黙ってていいの??
みちこさんは、クレジットカードや最近流行りの電子マネーがちょっと苦手です。
電車を利用する時などは、いちいち切符を買うのが面倒なので、ICカードを使って電子マネーで支払いをしますが、
お店での買い物では、なるべく現金で支払いをするようにしていました。
何となく、電子マネーやクレジットカードで買い物をすると『お金を使っている』という実感が薄くなるので、ついつい無駄遣いが増えてしまいます。
そのため、みちこさんはなるべく現金払いをするように心がけているのです。
ある日、みちこさんは本を買いに本屋へ行きました。
読書好きのみちこさんは、様々なジャンルの本を読みます。文庫サイズの小説から、ハードカバーの上下本まで、本屋で目にとまり、興味がひかれたものは、何でも買ってしまいます。
普段あまり高い買い物はしないみちこさんですが、大好きな本だけは特別です。
この日も、みちこさんは気になる本をどんどん手にとり、選んでいきました。
気になる本を、一通り手にとり、ようやくレジへと向かったみちこさん。
今日は祝日だからでしょうか、本屋はいつもより人が多く、複数あるレジは、どれもかなりの行列ができていました。
行列が長いため、ちょっとイライラした雰囲気をだしているお客もいましたが、みちこさんは手に持っている、これから買う本をパラパラとめくりながら『家に帰ってゆっくり本を読もう!』と御機嫌でした。
ようやく、みちこさんの会計の番がまわってくると、店員は素早くバーコードを通していきます。
行列ができているせいか、店員は、少し焦っている感じが伝わってきました。
『そんなに焦らなくてもいいのに…でも、うるさいお客さんもいるから仕方ないのか。大変だなぁ』と思いながら、レジの表示に目をやります。
購入金額の合計は、4,320円と表示されました。
『今日もたくさん買っちゃったなー』と何とはなしに考えながら、財布を開くみちこさん。
小銭入れを見ると、320円ぴったりあったので、まず小銭を出し、その後、5,000円紙幣をだしました。
レジの店員は、みちこさんが手渡したお金をうけとると、手早くお金をレジにしまっていきます。
そして…
「6,000円のお返しになります。」
ちょっと早口で、おつりとレシートを手渡されました。
渡されたおつりを財布にしまおうとしたみちこさん。それと同時に、「お次のお客様どうぞー!!!」目の前の店員は大きな声で、次のお客に向かって声をかけました。
すぐに後ろのお客がレジにやってきたので、みちこさんはあたふたしながら、レジ前から離れました。
レジが混んでいるので、さっさとどかないと邪魔になってしまいます。
もらったおつりを、レシートと一緒に財布にいれ、慌ただしく本屋を後にしました。
そうして、ようやく家に帰りついたみちこさんは、その後一日中、買ってきた本を楽しんだのです。
気付かずに家まで持ち帰ってしまった!!その場で申告しなかったから、もう犯罪になっちゃうの?!
本を買った翌日、みちこさんは日課である家計簿をつけようと、財布からレシートの束を取り出しました。
几帳面なみちこさんは、毎週の出費を家計簿に記入しているのです。
そして、本屋でもらったレシートをみました。みちこさんは、そこで、あることに気付いたのです。
『あれ??おつりが…6,000円?!私、5,000円札出したよね??』
普段から、お金の管理には人一倍気を使っているみちこさんは、基本的に、お給料日に1回だけ現金をおろすようにしているのです。
しかも、無駄遣いをさけるため、いつも1ヶ月に必要な、ぎりぎりの額しかおろしません。
そして、明日が次のお給料日。
みちこさんは、本屋に行ったあの日、お財布に紙幣は5,000円札しかないことを認識したうえで、合計金額を調整しながら、買う本を選んでいたのです。
『う、うん…やっぱりそうだ。家計簿見直しても、あの日はもう、紙幣は5,000円札しかなかったはずなのに…』
みちこさんが持っている本屋のレシートには、しっかりと『おつり 6,000円』と書かれています。
『…5,000円札をだしたのに、おつりが6,000円ってことは、きっと店員さんが10,000円もらったって、勘違いしちゃったんだよね??』
『え?!つまり、私、買った本も代金も支払ってないし、逆に本屋にお金貰っちゃったってこと?!』
きちんとお金を払って買ったはずの本を、実は購入できていなかったのです。しかも、余分にお金まで貰ってしまった状況のみちこさん。
『どうしよう、これ…黙ってて…いいのかな??』
一瞬、みちこさんの頭によぎったのは『得しちゃった!?ラッキー!!』という思いでした。
みちこさんは、本屋から本を万引きしたわけではありません。きちんと購入する意思をもって、レジに並び、会計を済ませたのです。
この時点で、みちこさんには、全く非がありません。おつりを渡し間違えた、店側のミスなのです。
『私はちゃんと買おうと思ってたし…私は、悪くないよね??』
そんな考えも一瞬よぎりましたが、元々真面目なみちこさんは、すぐに思いなおします。
『いやいやいや!!ダメでしょ!!!これ、黙ってたらネコババしたことになっちゃうよ。』
慌てて思いなおしたみちこさん、早速、レシートに記載されている本屋の電話番号に、電話をかけようとしました。
そして、そこでふと、疑問ができたのです。
『あれ…??私、もらったおつりを家まで持って帰ってきちゃったし、本ももうフィルムカバーをはずして読んじゃってるけど…これ、もう私が『ネコババしちゃった』ってことで罪になるのかな?!』
レジが終わった直後ならともかく、家まで帰り、一晩たった状態になり、ようやく『今気付いたんです!!』と言って、果たして信じてもらえるのでしょうか??
一度家まで持ち帰ってしまった、ということで、『悪意があって、お金と本を持ち帰った』と思われてしまうことはないのでしょうか。
みさとさんは、本屋に自己申告することに、急に不安になってしまったのです。
『気付かずに受け取った場合』はセーフ!『気づいているのに黙っていた場合』は…アウト!!
では、今回のケースの場合、みちこさんは罪になってしまうのでしょうか??
一体、どのような罪が考えられるのか、みていきましょう。
皆さんは、以前『コンビニでおつりを多くもらいすぎた人』が、『詐欺罪』で逮捕されたという、衝撃的なニュースをご存知でしょうか?
『店側のミス』で多く渡されたおつりをそのまま受け取っただけなのに、それを受け取ったお客の方が逮捕とは、ビックリですよね。
店側のミスがなければ、その人は多めのおつりを受け取ることはなかったのに…まるで、店によって、無理やり犯罪者に仕立てられてしまったのでは?!と疑いたくなるような事件ですよね。
詐欺罪(さぎざい)とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする(例えば無銭飲食や無銭宿泊を行う、無賃乗車するなど、本来有償で受ける待遇やサービスを不法に受けること)行為、または他人にこれを得させる行為を内容とする犯罪のこと。刑法246条に規定されている。未遂も罰せられる(250条)。
上記の通り、『詐欺罪』に該当するには『人をだまして、自分が得をしよう』という意思の有無がポイントとなってきます。
このコンビニ事件の場合、おつりを受け取ったお客が『自分が出した額より多いおつりを、店側のミスと認識しながら、黙って受け取った』とみなされ、詐欺罪での逮捕に至ったのです。
では、再びみさとさんのケースに戻ってみましょう。
みさとさんの場合、ちょっと事情が変わってきます。
みさとさんは、少なくとも、レジでおつりをもらう時点では『自分が出した額よりも多いおつりをもらっている』という認識はなかったのです。
みさとさんが店員を欺いたわけではないので、このケースの場合、詐欺罪は成立しないのです。
『おつりを多くもらった』と気付いた時点ですぐに返しましょう!さもないと…本当に犯罪者に?!
さて、結局、みさとさんはどうしたかというと…
真面目で正義感の強いみさとさんは、きちんと本屋に電話をし、しっかりと事情を説明しました。
そして、店側からミスの謝罪を受けるとともに、きちんと精算処理をしました。
店側は、自分たちのミスにも関わらず、正直に名乗りでてくれたみさとさんに感謝し、当然『詐欺罪』にあたる等と言いだすことはありませんでした。
このようなケースの場合、双方納得のうえで円満解決になることが一番望ましいのですが、なかには『原因は店側のミスなんだから、こちらが黙っていても問題無いだろう』と、そのままネコババをしてしまおうとする人も存在します。
しかし、このように『店側のミスに気付いたが、黙っていることで自分が不当に得しようとしている』状態になってしまうと、今度はその人の『故意(悪いことをしようとする意思)』が認められることになるのです。
この場合、『占有離脱物横領罪』という罪になる可能性があります。
遺失物等横領罪(刑法254条) 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
例え、きっかけは店側のミスだったとしても、そのミスに乗じて、不当に自分が得するような動きをすれば、それは『罪』となり得るのです。
相手にミスがあっても、それ幸いと自分が得することばかりを考えるのではなく、誠実な対応をするよう、心がけましょう。
『面倒くさいから申告しなくていいや』
『向こうのミスなんだから、こっちは悪くない』
等と思って放置していると、ある日突然、逮捕されてしまうかもしれません(笑)
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